彼は無事に退院して、独り暮らしをはじめていた。 バツイチ子供なし独居の現実。 収入が限られている中、「精神的ミニマリスト」から「物質的ミニマリスト」を意識して「真のミニマリスト」となった。 そもゆえ「終活」と「断捨離」をナンセンスと断ち切った…
失踪先としてたどり着いたのは、花の都”東京”だった。 あまりにもステレオタイプである。 この章で流れた時は5〜6年だろうか。 語りたいことがあまりに多い。 しかし、語ってしまうと身の危険が伴うことは確実かもしれない。 だから敢えて語らないことにす…
他者から見ると、彼は三度目の失踪をしたように見えただろう。 彼は隔離病棟の雑居病棟で、何をするでもなく過ごしていた。 1日の24時間があまりに長く感じられていた。 することがないのだから当たり前のことである。 それでも彼の中には”継続”という言葉…
あの時代、音楽より先に出会ったのは「音のある機械」たちだった。 テレックスの駆動音、リボンの擦れる音。 ガリ版を刻む鉄筆の先の震え。 輪転機が放つ、まるで心臓の鼓動みたいな、重たくて一定のリズム。 その頃の彼はまだ、楽器に触れたこともなかった…
今日の彼は世の中から取り残されているような気分に陥っているらしい・・・ さて、少し振り返ろう。 仕事も趣味も充実していた。 経理の仕事をしながらも、システム関連の仕事も並行してこなしていた。 しかし、それが評価されることはなかった。 同僚…
彼はガレージの中で、ゴムの短靴に自転車の空気入れでせっせと空気を入れていた。 父親は聞いた。 「なにをやっているんだい?」 彼は答えた。 「短靴に空気を入れて長靴にするの」 その顔は無邪気そのものだった。 父親は直感的に思った。 「この子、普通に…
彼の視野は不思議と広かった。 事務仕事で帳簿を見ながら電卓を叩いているように見えていても、隣、いや、その事務室全体のそれぞれの動きが見えていた。 同僚が冗談半分で「まるでカメレオンみたいね、色が変わるんじゃなくで、卓上を見ているようで全体が…